前回は「時代変化の本質は、ひとの欲求」である。と結論付けました。
今回はその続きで、この「ひとの欲求」の本質とは何か?についてお伝えしたいと思っていたのですが、その前に一緒に考えておきたいテーマがでてきました。それは、これまでも何気なく使ってきた「本質」についてです。なぜならば、この「本質」が、これからの未来を切り拓くための重要な「道しるべ」になるからです。
先日ドラッカー学会関係で、セルフマネジメント・サミットというイベントに参加してきたのですが、そこでは早稲田大学の西條先生という方が「本質」についてお話をされていました。
西條先生には、2年前の2017年、ドラッカー学会の総会・ネクストソサエティフォーラムの第一回目の実行委員会で大変お世話になりまして、西條先生のお陰様で大変大きな成果を上げることができました。改めてこの場で感謝の意をお伝えいたします。
さて、その西條先生曰く、これまで「本質」について学問として研究がなされてこなかった、ということで自ら「エッセンシャルマネジメントスクール(EMS)」というのを数年前に立ち上げられ、現在多くの受講生を抱えていらっしゃいます。中には、サイボウズの青野社長や、花まる学習会の高濱先生も学ばれているのだとか。
では、これだけ多くの方が関心を持ち、西條先生も熱心に研究されている、この「本質」って何でしょうか?
今後このコラムでも「本質」については度々取り上げることになろうかと思いますし、みなさまにおかれましても、ものごとの「本質」を捉える、ということが今後の意思決定にも大きく役立つと思います。
そこで、一旦ここで脇道に逸れますが、この「本質」について理解することは今の時代非常に重要だと考えますので、ぜひお付き合いいただければと思います。
まず、なぜ私は「本質」にこだわるのでしょうか?
その理由の1つは、私の性格によるものです。私は、根っからのめんどくさがり屋なのです(^^;)
そして、生産性オタクの私は、いかに小労力で高い生産性を上げるのか、をいつも最大のテーマとして考えているので、ひとつひとつ目の前のことに時間を割くことがどうしても耐えられないのです。。。
例えば、以前考えたことの1つに「営業の本質は何か?」という問いがありました。それは、10年ほど前に、私の人生上半期の最大の勝負として賭けたデジタルサイネージ事業で大失敗したのは、「営業ができていなかった」ということが根本的な原因の1つだと理解したからです。
そこから、「営業」について極めようと思い、営業に関する本などをいくつも読み漁ったわけですが、そうすると当然のことながら本によって言っていることが全く違うことに気づくわけです。
などなど。
これだと、私のようなめんどくさがり屋には、やることが多すぎてしまい、頭の中が混乱状態です。また、自分の能力ではこれだけ多くのことに集中することができません。。。そこで、「営業する上で、最も注力すべきことは何か?」を考えることにしました。
この時の思考をざっくり説明するとこんな感じになります。まず何か1つにフォーカスし、それを突き詰めていくイメージです。
・企画書の書き方を変えれば成果が上がる
→でもその前に相手のニーズが分からなければいけない
→相手のニーズを知るには、その前に人間関係ができていなければならない
→人間関係を築くためには、その前に相手の人間性を知らなければならない
→相手にとって本当に大切なことを理解して、その問題を解決する、という姿勢が大切
→問題を解決することが大事であって、商品を売り込むのは二の次
→ということは一番大切なのはまずは相手を深く理解すること
→ということはその前に相手に対して興味・関心を持たなければならないということ
→それってつまり。。。
→「愛」ってことか。確か、マザー・テレサも「愛の反対は、無関心」と言っていた。
→もっと上の概念はあるか?
→これよりも重要なことはなさそうだ。ではこの「愛」を答えとしよう。
このように最後の答えが出てきたら、一応それを仮の答えとして、次にその確認として、逆が成り立つか確認していきます。
もし「営業の本質が愛」なのであれば・・・
→企画書の書き方もうまくなるだろうし、極論企画書がイマイチでも関係なさそう
→プレゼンの仕方もうまくなるだろうし、極論プレゼンがイマイチでも関係なさそう
→アポイントを取る前に、事前に相手を調べて、相手の課題を推察するだろうから、アポ率は格段によくなるだろう
→話し方、声のトーン、使う言葉は、相手を想ったものとなり、相手の印象は全く違うものになるだろう
→当然、お客さんのニーズを先回りして考えられるだろう
→商品を売ることよりも、人間関係づくりが重要であり、むしろ商品を売る、というのは副次的要素となるだろう。でも人間関係がちゃんとできれば絶対に売れるようになるだろう
→売り込む前に、当然相手のことを理解するだろう
などなど
最初に洗い出した項目に対して、確認していき、もし例外があればもう一度その仮説を見直します。また、上記のように全てに当てはまりそうであれば、それを「本質」として位置付ける、という思考になります。
ただ、「営業の本質は、愛である。」なんてことを、真顔で人に言うと宗教家みたいな感じになってしまうので、人に言うときは半笑いです(笑) ですが、私の中ではこれが本質的な答えだと今でも位置付けています。このおかげで、私の頭の中はスッキリし、営業がめちゃくちゃ楽しくなりました。また、当然成果も簡単に上げられるようになったわけです。
このように目の前のものごとを突き詰めてたどり着いた答えが「本質」であり、この「本質」をおさえれば、あとは何とかなる、と言えるものです。だから私のようなめんどくさがり屋の生産性オタクは、このような「本質」を常に見つけようとする「癖」があります。
それを見つけられれば、いちいち目の前のものごとの1つ1つに目を向ける必要がなくなるので、思考や行動が非常にシンプルになり、自分自身が楽になり、結果的に生産性は格段に向上します。
※目の前のものごとに10時間づつ費やしたとしたら、50時間かかる。
↓
※ものごとの本質の解決に10時間費やしたら、結果的に目の前のものごと5個がまとめて解決できる
あと、私が最近特に「本質」にこだわるもう1つの理由。そして、いま多くの方が西條先生の「エッセンシャルマネジメントスクール(EMS)」に集まる理由。それは、いまが大変化の時代である、というこのコラムで何度もお伝えしていることに他なりません。
「基本と原則に反するものは、例外なく時を経ずして破綻するという事実」
出典:P・F・ドラッカー「マネジメント」
変化の時代には、自らが望むと望まざると、ものごとが変化していくことになります。このときに重要となるのは、何を変化させ、何を変化させないか、を決めることです。
そこでドラッカーのこの言葉が大切になるわけです。「変わらざるもの、すなわち基本と原則」これを理解せずに、これを踏み外した変化の意思決定をすると、早かれ、遅かれ必ず失敗する、というわけです。
私は、20年間の会社経営の中で、これを痛いほど感じています。過去のすべての失敗は、まさにこの「基本と原則」を踏み外していたと認識し、いまは深く反省しています。自らの経験を通じて、ビジネスには絶対に外してはいけないルールが明確にあることがわかりました。それは、「三方よし」の大原則です。
これが、ビジネスの「本質」だと私は考えています。このことについてもまた機会を作ってお伝えしたいと思っています。
ただ、ここがビジネスの難しいところでもあり、面白いところでもありますが、この「本質」に沿って意思決定しないと確実に失敗してしまいますが、この「本質」に沿って判断しているからと言って、100%成功するわけではないことに、みなさまもご注意ください。
ちなみに、「変化」には、「主体的な変化」と「時の流れに身をまかせる変化」の2つがあります。
「時の流れに身をまかせる変化」と聞くと、主体性がなく、あまりよくない印象を持たれる方もいらっしゃるかもしれませんが、実際は自分でできる範囲というのはむしろ小さく、大きな流れは自分一人、自分の会社だけでは何ともなりません。なので、しっかりと「時の流れを読み、そこに身を任せてしまう」というのは実は大切です。
しかし、そこに「主体的な変化」が全くないと、それは盲目的に流されることになり、それは非常に危険な状態です。前述の「何を変化させ、何を変化させないか、ということを決める」は、「主体的な変化」の意思決定ということになります。
つまりは、人事を尽くして天命を待つ、ということです。
1つ例え話をしましょう。
いまは1900年前半期、人力車の会社を経営している会社を想像してください。
時代は、1908年にT型フォードが発売され、世界に自動車が広く普及していく、今と同じく大変化の時代です。人力車は近い未来に時代遅れとなるでしょう。このとき、経営者は何を考え、どう変化させるべきでしょうか?
A社の社長は考えました。そして、ビジネスの本質は「お客さんの輸送」だと定義しました。また、お客さんの欲求は「より早く、行きたい場所へ連れていってもらうこと」だとわかりました。
したがって、技術革新の流れに沿って、人力車を自動車へ変え、タクシー会社へと変化することに決めました。
別のB社の社長は考えました。そして、ビジネスの本質は「遠くからこの土地に足を運んでくれたお客さんに、この土地をより詳しく理解してもらい、人間関係を作り、この土地のことを好きになってもらうこと」だと定義しました。
また、お客さんの欲求は、「この土地の魅力を知り、この土地の人を知り、より有意義にこの土地での時間を楽しむこと」です。
したがって、あえて人力車はそのままに、観光業に転身することに決めました。
ここで大切なのは、A社もB社もいまは同じように人力車を使って、ひとの輸送をビジネスとしているので、表向きは全く変わりません。しかし、突き詰めていったときにビジネスの定義がそれぞれ全く変わったわけです。
その定義が変わったからこそ、対象とすべき顧客が変わり、何を変化させ、何を変化させないか、の意思決定がそれぞれ全く違う判断になったということです。
A社とB社どちらも、お客さんのニーズの「本質」を理解し、自らの事業の「本質」を捉えた上での変化なので、うまく変化の時代を切り抜け、生き残られそうです。
しかし、もしここまで考えが及ばず、自らの事業の「本質」を「(人力車を使って)人を移動させること」程度にしか捉えられなかったら、どうでしょう?
今すべき努力は、もしかして、他社より早く移動するために筋トレすることになってしまったかもしれません。しかし、いくら筋トレをして、他の人力車会社よりも足の速い引き手を生み出したところで、タクシー会社に変化したA社には勝てるわけがありません。
また、「主体的な変化」もせずに、ただ時代の流れに身を任せていたらどうでしょう? 当然のことながら気づかないうちに、他社は自動車に切り替わり、あっという間に市場から退室を余儀なくされます。
つまり、この変化の時代において、最も重要なことは、お客さんの変化しないニーズの「本質」を捉えることが重要です。
ビジネスをしている方などであれば「もっと早く、行きたい場所へ行きたい」という欲求は、時代によって変化しない本質的な欲求と言えます。また、「せっかくきたこの土地のことを深く知って、この土地を楽しみたい」という欲求も、旅行者であれば時代によって変化しない本質的な欲求と言えます。
このように、「ひとの欲求の本質」を捉えることは、変化の意思決定をする際には特に重要となります。
また、今回のA社とB社のように、お客さんの欲求の本質を理解した上で、自分たちのビジネスの「本質」を考えることが重要です。
自分たちの会社が提供しているものの本質的価値は何か? お客さんが買っている本質的価値は何か?
先の例で言えば、A社のお客さんが買っていたのは「時間」だったかもしれません。そしてB社のお客さんが買っていたのは「情報」だったのかもしれません。
その認識の違いが、A社とB社の2つの新たなビジネスへの変化を生み出しました。この2つのビジネスは、提供している本質的価値が違います。
したがって、対象としている顧客も変わり、考えられるプロモーションのコンタクトポイントも変わりますし、クリエイティブも変わりますし、会社として努力すべきことも変わってくるわけです。
いま私たちは、まさにこのような時代の転換期にいます。何を変え、何を変えざるべきか。その判断をするために、時代が変わっても、変化しない「本質」を知ることが、次の時代にも生き残るために必要なのです。
ということで、今回は、「本質」について理解することが、大変化の先の新しい未来を切り拓き、生き残るための重要な「道しるべ」になる、というお話をしました。
では、次回は脇道第二弾として、「本質」を見極める思考法、についてお伝えしたいと思います。
世の中の当たり前をRe:Designし、『いきいき!わくわく!働ける未来』を創造する。
キズナキャスト小林でした。
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